こどもの「くせ」ついて

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「くせ」は多少なりとも誰にもあるもので、それ自体が病気だというものではありません。「くせ」は、大した意味もなく無意識にやっているように思われがちですが、「何かに向かうときには必ずこの行為をする」という、いわゆる「ゾーンに入るためのおまじない」的な面もあり、その人にとって、気持ちを落ち着ける作用があるようです。そして、子どもの「くせ」も「気持ちが落ち着かなかったり不安だったりするから、それを解消するためにやっている」と考えることができます。だとすると、ただ叱ってやめさせればいいというものではないということも理解してもらえるはずです。

人は気持ちがモヤモヤしたとき、安定を得るために何らかの行為が必要なわけで、その行為をやめさせるためには、その行為に替わる行為を準備してあげなければなりません。「くせ」の治療をするときには、そのような視点がとても大切です。

しかし、なぜ「その行為」になるのでしょうか。それには「感覚」が関係しています。さまざまな行為によって得られる一定の感覚刺激が、気持ちの安定につながるわけです。例えば、小さな子どもが赤ちゃんの頃使っていた毛布をいつも離さないのは、毛布の感触がその子にとって安心につながるからでしょう。赤ちゃんの頃は泣けば抱いてあやしてもらえるけれど、ある程度の年齢になると、そうそう抱いてはもらえなくなります。お母さんから物理的に離れていくときの不安を解消するのに、赤ちゃんのときくるまれていた毛布の感触はうってつけです。

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このように、子どもが不安の解消のために常に持ち歩くものを「移行対象」といいます(スヌーピーの漫画でライナスがいつも持っている毛布がこれですね)。子どもが指しゃぶりをするのも、おっぱいを吸う行為の代償と考えれば納得がいきますし、それが爪かみに移行していくのもわかりやすいと思います。性器いじりも幼児にはよくみられますが、これも性的な興味で行っているのではなく、陰部を触る感覚で安心を得ているのです。なので、性器いじりを性的異常行動だと驚く必要はありません。

ときに髪の毛を抜く子どももいますが、これは、髪を抜くときの痛みや、抜くときの「プチン」という感覚との関連があるといわれています。リストカットなどの自傷行為も、やっている子どもに訊くと「切ったときの痛みで気持ちがスッと落ち着く」と話してくれることがしばしばあります。痛みが安心につながることはないと思いますが、どうにもならない気持ちの混乱を収め、冷静さを取り戻す効果はあるのかもしれません。

いずれにせよ、子どもたちはただやみくもに自分を傷つけているわけではなく、苦しい自分の気持ちを落ち着かせるために、必死の思いで自分自身を傷つけているということを理解することが大切です。なので「もっと自分を大切にしなさい!」というお説教は、のっけから的外れということになります。とはいえ、意味があることだから続けさせていいということにもならないのが難しいところです。それでは、どうしたらよいのでしょうか。行為別に少しだけ説明したいと思います。

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指しゃぶり:これは、授乳中の赤ちゃんの頃から普通にみられる行為です。そして、子どもがお母さから離れていく過程で、おっぱいを吸う代替として当然生じる行為だといえます。なので、34歳くらいまでの指しゃぶりは生理的なものとして、無理にやめさせようとせず、そっとしておくのがよいでしょう。子どもが心理的に成長していけば、多くの場合、自然に収まっていくものです。そして、そのきっかけになるのが「お兄ちゃん(お姉ちゃん)になるからそろそろやめようか」とか「小学生になるからやめようか」という、子どもの背中を押す一言なのです。しかし、ときどき学齢期以降まで持ち越してしまう場合があります。これは、指しゃぶりから離脱する時期に、何らかの離脱を阻害する状況があったのかもしれません。理由は何であれ、年長まで続く指しゃぶりは歯並びを悪くするなどさまざまな問題につながるため、早めに病院などに相談した方がよいでしょう。

爪かみ:爪かみは先ほども述べたように、指しゃぶりから移行したものと考えることができます。とはいえ、爪かみは健康な成人にも普通にみられる行為であり「欲求不満の表れではないか?」などと深読みする必要はありません。ただし、爪かみも他の「くせ」と同様に、気持ちが落ち着かなくなると増えるので、ストレスとの関連はあるといえます。爪かみがある人は、爪が伸びるとつい噛みたくなってしまうので、爪切りを持ち歩いて「気になったら切る」を繰り返せば、噛みたい気持ちを抑えられるため、徐々に消失させることができます。

性器いじり:幼児の性器いじりは、先ほど述べたように将来の性的問題行動や性的興味の強さにつながるわけではありません。とはいえ、みんなの前でパンツの中に手を入れて触っているのは見かけ上よくありませんので、叱るのではなく「あっちでみんなと一緒に遊ぼう」などと声をかけて、他のことに気を逸らせるようにします。触ること自体が悪い行為ではないので「人前ではやめておこう」ということが伝わればOKです。もう少し成長して、恥ずかしさがわかるようになれば、自然と人前ではしなくなります。自己を客観視して「恥ずかしい」と感じられるかどうかは、子どものこころの発達と関連しますので、視点の切り替えの成長が遅れがちな神経発達症(発達障害)を持つ子どもでは、このような行為が長く続く場合があります。

髪を抜く(抜毛癖):髪を抜く行為は美容上の問題も大きく、また、抜いた髪を口に入れれば胃の中で絡まって塊となり取り出せなくなるという問題が生じることもあり、要注意の行為です。しかし、髪を抜くときの感覚が他の行為では代替しにくいため、治療には難渋します。行為自体をなくすのは難しいのですが、どうして髪を抜いてしまうのか、髪を抜くときの感覚(痛み)でどんな気持ちを抑えようとしているのか、よく話し合って明らかにしていくことが大切です。また、気持ちを落ち着かせるためには、強く抱きしめるのが効果的ですから、子どもが辛い思いをしているようであれば、親が抱きしめてあげることができればいいな...と思います。ときに自閉症の子どもがこだわり行動の一環として抜毛を繰り返すことがありますが、その場合はマイブームが過ぎれば収まっていくことが多いようです。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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