子どもの腹痛について

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3歳くらいの子どもは、調子が悪いときや都合が悪いとき、なんであっても「おなかが痛い」というものです。そして、誰もが一度は「発表会の前におなかが痛くなった」なんていう経験があるのではないでしょうか。腹痛は、すごく身近な症状であるとともに、精神的な不安や緊張と関連しやすいものです。

ひとくくりで腹痛といいますが、腹痛には大きく分けで3つがあります。1つめは「胃が痛くてムカムカする(上腹部痛)」、2つめは「便通と関連し、トイレに行きたくなるような痛み(下腹部痛)」、そしてもうひとつは「生理に伴う痛み(月経痛)」です。そのうち、今日は消化管に関わる痛みについてお話しします。

食べ過ぎて胃が荒れたり、胃・十二指腸潰瘍を作ったり、ウイルス性の胃腸炎で腹痛と下痢、嘔吐を繰り返したりなど、さまざまな疾患で腹痛は起こります。これらに共通するのは、炎症や潰瘍といった目に見える胃腸粘膜組織の変化(病理的変化)があることです。このような疾患を「器質性」消化管疾患といいます。しかし、腹痛を起こす疾患には、目に見える変化がないものがあり、それらは「機能性」消化管疾患として括られています。この機能性消化管疾患の代表的なものが、上腹部痛をきたす「機能性ディスペプシア」と下腹部痛をきたす「過敏性腸症候群」です。機能性ディスペプシアでは、胃痛や胃もたれ、ムカつきなど、過敏性腸症候群では、腹痛と下痢、便秘などが主症状ですが、どちらも血液検査や内視鏡検査、組織検査などで異常を認めないのが特徴です。

これらの症状は、実はストレスがあろうがなかろうが起こるものなのですが、なんとなく「ストレスがかかるとおなかが痛くなるんだよね」と認識されがちです。これは、炎症や潰瘍などの器質的変化があると、それが原因だと認識しやすいのですが、そういった目に見える変化がないため、それ以外のものを原因として結びつけたくなるからです。人の脳は、いつもなにかを原因にしたがるものなのですね。ただし、ここで間違ってはならないのは、ストレスが原因でおなかが痛くなるわけではなく、ストレスは、機能性消化管疾患という病気の症状を増悪させるひとつの要因として存在しているのだということです。なぜ、そんなことをしつこく言うかというと、「ストレスが原因だ」という理解でストレスを減らすことばかりを考えても、治療にならないというか、症状自体ちっとも改善しないからです。

機能性消化管疾患には、目に見える器質的な変化はなくても、胃腸の動きのバランスが悪いなどの機能的な問題があります。それには体質的な部分が多分に関わっていますが、体質を変えるためには、まず生活習慣を見直さなければなりません。「食事はバランスよくとれていますか?」食事を抜いたり、お菓子やジュースで済ましてしまったりすることが続くと、どうしても食物繊維が足りなくて便秘になったり、砂糖が多すぎて下痢になったりします。そして、便秘や下痢は腹痛につながるのです。まず、そこから改善しないと腹痛は決してよくなりません。「適度に運動していますか?」「ちゃんと夜は眠れていますか?」そのような生活リズムの確認も、とても大切です。生活リズムが乱れると、どうしてもちゃんとした食事がとれなくなり、便秘や下痢の症状はひどくなるからです。

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もっとも、ちゃんと食事がとれなくなるほどの生活リズムの乱れが起こるには、学校に通えなくなるくらいの大きな心理社会的な問題(ストレス状況)が関わっているはずです。そのような状況に陥っている場合には、当然そこにも目を向けないといけないということになります。

もちろん、おなかが痛いと言っている子どもがみんな、生活リズムが乱れているわけではありません。しかし、繰り返しおなかが痛くなる状況を放置しておくと、だんだんとそうなってしまうこともあるので注意が必要です。教室にいるとおなかが痛くなる→学校でトイレにこもっているのを見つかってひやかされる→みんなにいろいろ言われるから行きたくない。学校でウンチするとなにか言われそうだからトイレに行けない→がまんしているうちにもらしてしまう→恥ずかしくてもう学校なんか行けない。授業中にトイレに行きたいと先生に言ったら「どうして休み時間に行っておかないの?」と叱られた→先生は自分のつらさを理解してくれない→わかってもらえないところになんか行きたくない。などなど、おなかが痛いという症状は、学校への行きづらさの大きな要因となってしまうのです。そして、実際に学校に行かなくなると生活リズムが乱れ、おなかの調子はさらに悪くなってしまいます。このように、おなかの調子の悪さは子どもの不安を強め、その生活に大きな影響を及ぼします。頭痛と比べて腹痛は、人の生理と関係するぶん引き起こす問題が複雑になるのです。

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だから、おなかが痛いのを「精神的なもの」の一言で片づけてしまってはいけません。食生活をはじめとする生活状況を確認し、修正が必要な部分は指摘して改善を求め、そのうえで胃腸の動きを調整する薬や便性を整える薬を使うなど、まずは身体面を中心に治療していきます。そのとき、おなかの症状をすっかりとってしまおう(とってほしい)と考えるのは危険です。機能性疾患による症状は、軽くすることはできたとしても、すっかりきれいになくなることはないからです。症状をなくすことより、症状に合わせてどう動いていくかを一緒に考え、少しずつ日常生活を取り戻してもらうことが大切です。

実は、治療によって長いこと悩んでいたおなかの症状がとれたら、今度は統合失調症(幻覚や妄想などを中心とする精神の病気)になってしまったという話もあります。腹痛や頭痛などの身体症状は、どこかで、その症状をもつ人のこころを守っている面があるのかもしれません。

腹痛と精神症状の関連といえば、次のようなものもあります。「おなかが痛い」に伴って「おならが気になったりお腹が張ってお腹がグルグルいったりするのが気になる」という子どもは多いのですが、そのような子どもたちの中に「自分のお尻からおならが漏れ出て、後ろの人が臭い臭いと言っている」と真顔で話す子がいます。いわゆる自己臭妄想です。このように、おなかと精神の症状は太いパイプでつながっており、これを「腸脳相関」といいます。「おなかの調子を整えることはこころの安定につながる」です。みなさんも、おなかには十分注意してくださいね。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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