なんだか見えづらい...心因性視覚障害について

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保育所や幼稚園の頃に眼鏡をかけている子どもは、遠視に伴う斜視の治療をしている場合を除いてほとんどいませんが、小学校、中学校、高校と進んでいくと、だんだんと近視や乱視が増え、眼鏡をかける子どもが増えてきます。日々の生活の中で近くばかり見ていることが多いため、みんな目が悪くなってしまうのですね。そのため、子どもの「なんだか最近、黒板の字が見えづらくなった」という訴えは、まったく珍しいものではありません。自覚症状はなくても、学校の視力検査で視力の低下を指摘されることもよくあります。

そんなとき、眼科を受診して「近視ですね」と言われれば、それはゲームのしすぎやスマホの見すぎ(いや、勉強のしすぎ?)で視力が落ちたんだな、ということになりますが、ときに眼科でレンズを使って矯正してもまったく視力が上がらなかったり、凹レンズと凸レンズで打ち消し合って度数を0にしたら見えるようになったり、という子どもがいます。このような子どもは、医学的に明確な原因がない(=眼球、視神経、脳に異常がない)のに、なぜか視力検査では視力が上がりません。また、教室では黒板の字が見えにくいというけれど、テレビを見るには困らないなど、日常生活においてはとくに支障がないのが特徴です。「眼鏡をかけたらよく見える」といって、度の入っていない眼鏡をかけて満足している子どももいます。

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人間は「物事にはかならず原因がある」と考えがちなので、身体的に問題がないのなら、つい「こころに原因があるのでは?」と考えてしまいます。授業中によく見えないのは「勉強がわからないから、黒板を見たくない気持ちが無意識に働いて、見えにくくしているのではないか」、眼鏡をかけたら見えるのであれば「普段あまり注目されない子どもなので、眼鏡をかけて注目されたいのではないか」などというストーリーを勝手に作ってしまうのです。それで「心因性」視覚障害といわれるのですが、現実には目立ったストレス状況はないことも多く、さすがに「心因性」はちょっと言いすぎかも?と感じてしまいます。

子どもは成長の過程で目の調節機能が不安定になり、ピントが合わせにくくなる時期があります。そんなとき「あれ?なんで見えないのかな?」と気になってしまうと、見えにくさに注目してしまい、注目すればするほどさらに見えにくく感じてしまう、という悪循環をとってしまうのです。つまり「現実を見たくないから見えなくなる」というファンタジーより、「見えにくくなったことへの注目と不安」が影響していると考える方が自然です。このように、身体的に見えづらくなる理由が説明でき、それが「こころ」の作用に影響されているとすれば、心因性視覚障害というより「機能性視覚障害(心身症)」という表現の方が正しいかもしれません。

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実際にこのような子どもが病院を受診したとき、カウンセリングなどの心理的治療を積極的に実施するわけではありません。「どんどん見えなくなるわけではないので安心してほしい」と伝え、日常生活に大きな支障がなければそのままで、授業中に黒板が見えにくければ、席を前の方にしてもらうなどの環境調整を依頼しながら経過をみるようにします。そうしていくうちに徐々に訴えは軽くなっていくか、本格的に近視に移行していくことがほとんどです。度の入っていない眼鏡をかけると見えるというのなら、必要時にはかけてもらえばよいのですが、たいていのケースでは、だんだんと眼鏡をかけること自体が面倒になり、かけなくなっていきます。それも、子どもにとって成長の一過程なのです。あまり深刻にならず、静かに見守ることが大切です。

ところが、ときに「まったく見えない!」といって大騒ぎになる場合があります。こうなると、成長に伴う調節機能の不安定性では説明がつきません。このように、身体的に説明できない(合理的でない)症状が出現するものを「変換症(転換性障害)」といい、これには心理社会的ストレスが大きく関連します。次回は、この変換症(転換性障害)についてお話しします。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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