思春期の子どもの頭痛について

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「○○が頭痛の種なんだよね」「○○で頭が痛い」などと表現されるように、頭痛と心理社会的なストレスは強く関係しています。もちろん、頭痛にもいろいろあって、インフルエンザで熱が出ても頭痛はしますし、くも膜下出血や脳腫瘍などで起こる頭痛は命にも関わります。このような、感染や出血、腫瘍など、目に見える原因があって起こる頭痛を器質性頭痛といい、そのような明確な原因がないものを機能性頭痛というのですが、いわゆるストレスとの関係が深いのは、この機能性頭痛です。

機能性頭痛としてよく知られているのが、片頭痛と緊張型頭痛です。加えて、思春期の子どもでは、先日からお話ししている起立性調節障害に伴う頭痛の存在を忘れてはなりません。片頭痛は、発作的に「ズキンズキン」という拍動性(心臓の拍動に合わせたような)頭痛が起こるのが特徴です。「片」頭痛というからには、片方が痛いんだろうと思われるかもしれませんが、いつもそうというわけではなく、ひどくなると頭全体がガンガンするようになります。また、片頭痛発作時は、騒がしいのが耐えられなくなったり、眩しいと辛くなったりする「感覚過敏」の症状も出現します。感覚過敏は発達障害の子どもがよく訴えるものですが、発達障害以外でも起こることがあるのです。片頭痛の痛みはひどく、動けないほどになりますし、ムカムカして吐いてしまうこともあります。

緊張型頭痛というのは、そんなに激しい痛みではないけれども、頭が何となく重いような、締めつけられるような頭痛がダラダラと続くものです。片頭痛の痛みが何日間も続くことはありませんが、緊張型頭痛は延々と続く場合もあります。片頭痛の発作はいつ起こるかわかりませんが、緊張型頭痛は、どちらかといえば、一日の疲れが出る午後に多いものです。それと比べて、起立性調節障害に伴う頭痛は朝に多く、めまい、立ちくらみ、全身倦怠感などの症状を伴うのが特徴です。

冒頭で「頭痛とストレスは強く関係している」という話をしましたが、頭痛の原因がストレスだというわけではなく、それぞれの頭痛には、痛みが起こる身体的要因があり、ストレスは頭痛を起こす引き金になったり、痛みを強くする増強因子になったりするというのが正しい理解です。緊張型頭痛は、緊張すると肩が凝るように精神的な緊張が体の緊張を引き起こし、肩や首の筋肉が緊張して頭痛につながるというのでわかりやすいと思います。一方、片頭痛はどちらかといえばリラックスしている週末に発作が起こりやすいという性質があります。これはなぜかというと、平日は学校や仕事があるから気合いを入れて頑張り、その緊張から解き放たれるときに発作が生じるということです。平日に頑張りすぎると休日に発作が出るというのは、これもストレスとの関係といえますね。起立性調節障害が心理社会的因子に左右されやすいのは先日述べたとおりです。ストレスがかかると、めまいや体のだるさがひどくなって動けなくなるのと並行して、頭痛も増強します。

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頭痛のときに痛み止めを飲むのは治療として間違いではありませんが、飲むタイミングを逸するとあまり効果がないので、ヤバいと思ったら早めに服用することが大切です。片頭痛では、通常の痛み止めの他に「トリプタン製剤」という特効薬的な痛み止めがあるのですが、これも適切な時期に服用しないと効果がありません。とはいえ、痛み止めをちょこちょこ飲みすぎると、だんだん効かなくなり、「効かないから飲む」を毎日のように繰り返すと、今度は「薬剤乱用頭痛」といわれる病態を引き起こします。こうなると、まるで痛み止め中毒のようになり、「痛み止めを飲んでおかないと痛い」状態になってしまうのです。ですから、そうならないように「痛み止めは月10回まで」と制限し、頭痛の頻度が高い患者さんには予防のための治療を行います。

片頭痛には何種類かの予防薬があり、最近は月に1回打つことで発作の頻度がかなり抑制できる注射薬もあります(ただし子どもは適応外です)。緊張型頭痛の場合は、ゆっくりお風呂に入る、ストレッチをする、自分に合った枕を使うなどの生活上の工夫と、筋肉の緊張をほぐす薬を服用することが緩和につながります。起立性調節障害の場合は、起立性調節障害の治療としての生活改善、服薬などで頭痛自体も緩和できます。

このような治療がなかなかうまくいかず、痛みが長期間にわたる(14時間以上、月15回以上の頭痛が3ヵ月を超えて続く)と、慢性連日性頭痛といわれるようになり、日常生活に大きな支障をおよぼします。ずっと頭が痛いと、それこそ学校に行くことができなくなりますし、無理して行っても授業に集中できなかったり、スポーツで本来のパフォーマンスが出せなくなったりなど、すべてがもどかしく感じるようになってしまいます。そして、そんな状態が長く続くと気持ちがすさみ、意欲がどんどん低下してしまうのです。そして、はじめの頃は少しきつくても頑張って登校していたのに、だんだん「もういいや」となってしまいます。そうなると、登校の頻度は低下し、生活リズムは乱れ、身体的にもさらに調子を崩してしまうのです。こころと体は密接につながっているということですね。

このような状態になると、もちろん痛み止めを飲んでも効果はありません。つまり、自分の力で痛みから逃れることができないということです。痛みがいつまで続くのか見通しが立たず、自力でどうにも対処できない状況に陥ると、人はどんどん意欲を削がれてしまいます。「自分はもうダメだ」「死んだほうがまし」とまで思い詰めてしまう場合もあります。「たかが頭痛、されど頭痛」です。

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そんな状況になってしまうと治療は非常に難しいのですが、とにかく「治療には時間がかかるが、少しずつは改善していくのであきらめないで」と説得し、予防薬や漢方薬を適切に使いながら、できるだけ規則正しい生活を続け、動けるときには少しずつ体を動かすようにすすめます。

患者さんはずっと痛いように表現しますが、実際にどうなのかを頭痛ダイアリーを使ってモニタリングしてもらいます。頭痛の程度を自己評価し、記録をつけてもらうのです。いろんな評価法がありますが、個人的には「どうしようもない痛みなら5、痛みがあってもとりあえず動ける程度なら3、微妙に痛いかなというくらいなら153の中間は431の中間なら2、まったくないなら0」として評価してもらっています。毎日54ならどうしようもないのですが、ときどきでも3が出てきたら「わりといいね!」と前向きにとらえます。「すぐにはよくならないけれど、ちょっとずつましな日が出てくればいい」「頭痛があっても3なら、少しずつ動いてみよう」と話します。そういうやりとりに乗ってきてくれれば、時間はかかりますが、痛みはだんだんと快方に向かっていきます。

こちらに患者さんを引き留める力がなく「こんな治療には意味がない」と別の病院に行かれてしまうのは仕方ないですが、このような状態になると、どこにかかっても正直あまり変わりません。慢性に続く症状を魔法のように治してくれる名医なんて、実はどこにもいないのです。だから、目の前にいる医者の言葉を信じて付き合ってもらった方が、結局は早道のような気がします。いずれにせよ、時間がかかることを受け入れ、今できることを根気強く続けていくのが大切です。身の丈に合わせた生活を続けること、あせらずに症状とつきあっていくことが、頭痛に限らず、どのような疾患においても、長く続く症状を改善に導くカギとなるのですから。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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