ゲーム・ネット依存

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「うちの子はいつもスマホを握りしめているんです。食事中もずっと見ているし、お風呂場にも持っていくんですよ。それで、取り上げようとしたらすごく怒るし、依存症ではないでしょうか?」そういう心配の声がよく聞かれます。たしかに、こんな状況だとやりすぎですよね。しかし、だからといって「依存症か?」といわれると、そうとまではいえないのです。

依存症というのは、「何かにのめり込んで、やめたくてもやめられなくなっている状態」です。身体的な快感や、精神的な多幸感、ワクワク感、楽しさを追求する行為がエスカレートして、やめたいと思ってもやめられず、それによって学校や仕事に行けなくなったり、家庭がボロボロになったりして、日常生活がまともに送れなくなってしまうものです。よく知られているのが、覚せい剤などの薬物依存やアルコール依存で、やめなくちゃと思ってもどうしてもやめられず、物質自体の身体的悪影響もあり、身も心もボロボロになってしまいます。このような、薬物など特定の物質の摂取を繰り返してしまうものを「物質への依存」といいます。依存症にはもうひとつ「行為への依存」というものがあり、買い物やギャンブル、万引き、性行為、ゲーム・ネット依存などがこれにあたります。これらは摂取した物質で身体が蝕(むしば)まれてしまうことはないけれど、その行為をやめたいけどやめられないという依存状態に陥ってしまい、長い時間をその行為に費やすことによって、健康被害が生じたり、生活自体が破壊されてしまったりします。

「こりゃまずいな」と思って自分でセーブできるレベルであれば依存症とはいいません。依存症になると、どうしてもやめられなくなるのです。それでは、どうしてそのようなことになってしまうのでしょうか。

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脳内には「報酬系回路」というルートがあり、自分にとって心地よいことをすると、その回路でドーパミンという物質が働き、気持ちがよくなります。気持ちいいことをしたがるのは当然ですよね。ただし、あまりにも繰り返しやりすぎると、だんだんと通常の刺激では満足できなくなり、過度な刺激を求めるようになってしまいます。また、人には「気持ちいいことばかりやりすぎて、生活を崩壊させてはいけない」と考え、節度を保とうとする理性の働きがあります。その理性を司っているのが「前頭前野」で、通常はその働きによって依存症にならないよう行動が制御されています。

報酬系回路の働きが鈍い場合には、過度な刺激でないと気持ちよくならないので、繰り返し刺激を求めてしまいますし、前頭前野の働きが弱いと、理性による行動の制御ができず、依存症に陥りやすいといわれています。そして、子どもは前頭前野が発達途上にあり、抑制が効きにくいので、より依存症になりやすい傾向があります。

しかし、もっと重要なのは「どうして過度に快楽を求めてしまうのか」です。依存症に陥りやすい人は、自分の日々の生活で、満たされない部分がたくさんあるからこそ、満たされない部分を埋めようと、物質や行為による心地よさを求めてしまうのです。「自分は誰からも受け入れてもらえない」「誰も自分のことを認めてはくれない」「自分はダメな人間で、生きていく価値がない」誰しもこのように考えてしまうことはあると思いますが、そのような「こころの空虚感(寂しさ)」があまりに強すぎると、人はそれを埋め合わせるために、極端な快楽を求めてしまうのです。依存症は、単にこころが弱いからなるのではなく、どうしても埋められなかった寂しさが根底にあるのだと理解する必要があります。

不登校の子どもがゲームばかりしたりスマホでずっと動画を見ていたりするのも、それに近いところがあります。「学校に行けなくなった自分はダメな人間だ」「学校に行けなくて、これからどうなるんだろう」このような不安な気持ちに苛(さいな)まれ、現実に直面するのが怖いからゲームや動画にハマる。子どもたちは、そうやって現実逃避していないと、いても立ってもいられない状態に置かれているのです。もちろん、なかには本当にゲーム依存症の影響で学校に行けなくなる子どももいます。しかし、個人的実感としては、依存症になったから学校に行かなくなったというよりは、学校に行けなくなったから、ゲームにハマるしかなくなったという子どもがほとんどのように感じます。そして、後者の子どもの多くは、まだ依存症には至っていないのです。

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そのため、学校に行けなくなってゲームばかりしているような子どもには「ゲームは、あなたが穏やかに生活するために必要だから禁止はしない。でも、さすがに一日中やり続けるのはよくないし、とくに夜遅くまでやっていると生活リズムが乱れ、体調も悪くなる。昼夜逆転は精神的にもよくないから、それだけは避けるようにしよう」と説明し、夜の一定の時刻には親に預けてゲームから離れるように指示します。生活リズムを乱さないためには、せめて0時頃には寝た方がよいので、できればその2時間前の22時、無理なら1時間前の23時にはゲームからは離れることを推奨します。もちろん、本当は「学校があっている時間帯にはゲームはしない」とルールを決めたいのですが、なかなかそこまで約束するのは難しい場合が多く、せめて夜だけでも守ってもらうようにします。約束事はできるだけ少ない方が、守る気にもなるというものです。

「ゲーム・ネットから離れたいけど、離れることができないから入院したい」という子どももいます。SNSのトラブルなどで辛い思いをした子どもが「しばらくはケータイを見たくないから」という気持ちで入院を選択する場合もあります。スマホやパソコン、ゲーム機から離れて一時的にアナログ生活を送ってみるのは、とてもよい試みです。そうやって自らの意思で入院してくる子どもも、親から説得されてしぶしぶ入院してくる子どももいますが、たとえしぶしぶでも、とりあえず入院を承諾するような段階であれば、依存症とはいえません。本当に依存症であれば、強制的に引き離さない限り、ゲームやスマホから離れることはできないのです。

子どもは、自分の意に反すること、どうしても納得のいかないことを無理にやらされようとすると強く拒否し、ときには暴れることもあります。それは、依存症のために正常な判断ができないわけではなく、自分がどうしても納得のいかないことを強制されるのが耐え難いから強く抵抗しているのです。そんな子どもの状態を見て「依存症だ」と考えるのではなく「これだけ苦しんでいるんだ」と理解することが、むしろ子どもの安心感を高め、事態の打開につながると考えた方がよいでしょう。そのうえで、じっくりと話し合うことが、解決につながるはずです。依存症だからとあきらめてしまわず、親子でしっかり向き合っていきましょう。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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