思春期の子どもの睡眠の問題

子どものこころ23.png

歳を取ると体が痛くなるのでいつまでも寝ていられなくなりますが、中高生の頃はいつも眠くて、平気で昼過ぎまで寝ていたなあ...と思い起こす人も多いと思います。年齢的に、思春期は宵っ張りの朝寝坊になりやすいものです。それに加えて「えっ?」と感じられるかもしれませんが、思春期の子どもに必要な睡眠時間は19時間といわれています(日本の中高生でそんなに寝ている子はあまりいないと思いますが)。そのため、さまざまな事情で夜寝る時間が遅くなったとき、朝通常の時間に起きて活動しようとすると、容易に睡眠不足に陥ってしまうのです。

中学校のとき成績優秀だったAくんは、高校で県内有数の進学校に入学しました。入学後、毎日課題がたくさん出ることに驚いたものの、まじめなAくんは毎日遅くまでかけて課題をこなしていました。それで、どうしても寝るのが遅くなりがちでしたが、早朝補習があるからと早起きして頑張って登校していました。そんな生活を続けていると、ほどなくして睡眠不足が重なり、だんだんと頭が回らなくなってきました。それに伴い、勉強の効率が悪くなり、成績が落ちてきます。Aくんは、そんな自分を「ヤバい、成績が落ちたら自分は何も取り柄がなくなってしまう」と感じて焦りますが、身体的にも無理が重なって体調を崩し、とうとう学校にも行けなくなってしまいました。Aくんは「自分はダメな人間だ、高校に行けないと大学にも行けないし就職もできない、お先真っ暗だ、生きていく価値がない」と悲観して、部屋に引きこもってしまいます。

毎年のように、こんなケースに遭遇します。学校の先生たちも、そろそろ昭和の根性論から脱却し、生理的に無理のない生活を送ることが学習効率の向上につながるのだということを理解してほしいものです。

もちろん、生活リズムの問題はこのようなケースだけではなく、夜な夜なオンラインゲームをしたりスマホでYouTubeを見たりして寝るのが遅くなる場合もありますし、学校で嫌なことがあって、悩んで眠れなくなるために朝が起きられなくなる場合もあります。先月述べた起立性調節障害で朝が起きられなくなることがきっかけとなり、徐々に夜が眠れなくなる場合もあります。そして、このように生活リズムがズレてしまうのを「概日リズム睡眠・覚醒障害」といいます。

時計.png

生物は、それぞれ脳内に時計をもっています。しかし、生物の時計は機械時計のように正確ではなく、人の場合、放っておくとその時計がだいたい11時間くらい遅れてしまいます。そのため、毎日時刻合わせをしなければなりません(最近はクオーツや電波時計がほとんどで、毎日時刻を合わせるなんてことしなくなりましたが、昔の時計はズレが大きかったので、よく時刻を合わせていたものです)。その時刻合わせの作業が、朝起きて光を浴びる、決まった時間に食事をする、日中に一定の活動する、などになります。そのため、朝起きない、ちゃんとご飯を食べない、学校に行かない、といった状況になると、生活リズムは容易に乱れてしまうのです。

逆に、このことを知っておけば、生活リズムを整えるためにはどうすればいいのかというのも理解できると思います。とにかく起きたら外に出て、周囲が明るい場所にいよう、起きたらご飯を食べよう、ということです。外に出て、外の明るさを感じることはとても大切です。体内時計合わせのためにはある程度の明るさが必要で、それは室内の照明くらいでは全然足りません。たとえ曇りの日でも、屋外は家の中にいるよりはずっと明るいので、とにかく外に出るようにします。また、一方向からの光ではなく、周囲が全体として明るいことが重要で、目の前だけスポットで明るくしても効果は少ないようです。目覚めたら冷たい水で顔を洗い、外に出て15分くらい空を見上げましょう。そうしながら水分を摂り、朝ご飯が食べられたらすごくいいですね。

とはいえ、あまり急激に整えようと焦っても体がついていきません。無理やり朝からたたき起こそうとしても毎日は続けられませんし、無茶をするとむしろ逆効果となり、リズムは余計に乱れてしまいます。それよりも「昼過ぎまで寝ているのはよくないから、せめて午前中には起きよう」という目標をたてます。

この「昼前には起きる」というのが実は重要で、昼過ぎまで寝ていると、子どもは朝も昼もご飯を食べず、夕食だけということになってしまいます。食事量が減ると体重が減ります。思春期の頃の体重減少は身体的にも精神的にも大きな悪影響を及ぼすのです。食事量が減るということは水分の摂取も減る、そうすると起立性調節障害も悪化します。とにかく昼前には起きるようにすることで、12食の食事は確保できるのです。

夜.png

夜、しっかり眠るためには、寝る前の環境整備も大切です。寝室を暗く静かな状態にすることはもちろん、就寝前にできるだけ興奮するような刺激を浴びないようにします。スマホ、ゲームなどは就寝時間のできれば2時間前、遅くとも1時間前にはやめるように指導します。子どもさんの場合には、親が責任もって就寝前に預かるよう、与えるときにルールを作りましょう。お茶やコーヒー、エナジードリンクなどカフェインの入っている飲料は、寝る前には当然禁止です。

それでも眠れないときには薬物療法となりますが、子どもに正式に使える薬は非常に少ないのが現状です。

加えて、朝起きるか起きないかには、起きようとするモチベーション(動機づけ)が大きく関係することを忘れてはなりません。トラブルがあって学校に行きたくない、登校するのがすごくつらい状況があれば、誰も朝から起きて学校に行こうとは思いませんよね。むしろ目が覚めたら学校に行かなければならないと思うと、目は覚めなくなってしまうのです。朝からどんなにゆすっても、大声を出しても、水をかけても起きないという人がいます。それは、明け方に寝入ったため、ちょうど睡眠のリズムが深い眠りの状態に入っているのかもしれませんが、「目が覚めたら学校に行かなければならない」といった気持ちから、意識が失われている可能性もあります。そのような状態を「解離」といいます。ストレス状況から自分の「こころ」を守るために、無意識的に意識を失わせているのです。

学校に行くのがすごくつらい場合には、無理に学校に行かせようとせず「学校に行くか行かないかは別にして、生活リズムを整えるのは成長のために大切なことだから、ある程度の時間には起きよう」とすすめます。起きてからも、学校に行かないとどうしても日中の活動性が落ちるので、学校以外に行ける場所を探し、いかに活動性を高めるかを考えなければなりません。生活リズムを整えるためには、そのような心身両面からのアプローチが大切です。

それでは、次回は睡眠の問題と大きく関係する、ゲーム・ネット依存についてお話しします。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
この記事の感想をお聞かせください
  • 学びがある0
  • 分りやすい0
  • 役に立った0

この記事についてのご意見やご相談等をお送りください。

ご意見ご相談

前へ

おすすめ商品:栄養たっぷり「やわらかクッキー」

次へ

ゲーム・ネット依存