強迫症について

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誰もが一度は「あれ?玄関の鍵かけたっけ?」と、出かけたあと気になった経験があるのではないでしょうか。これは「ガスの元栓、閉めたっけ?」でも「電気消したっけ?」でもよいのですが、ルーティンで流してしまう作業は意識に上らないので、ふと気になると、やったかどうかの記憶が定かではなく、何となく気になってしまうものです。でも、通常は「まあ、きっとやっているよね」と思ってそのまま進めば、そのうち忘れてしまいます。しかし、どうしても気になって、けっこう先まで行っていたのにUターンして確かめに行き、再度出発したら今度は別のことが気になってまた戻る、そんなことを繰り返すようになると、明らかに病気です。このような状態を「強迫症」といいます。

強迫症というのは「気になる(強迫観念)」→「確かめる(強迫行動)」→「やっぱり気になる(強迫観念)」→「再度確かめる(強迫行動)」の繰り返しによって起こります。「手が汚いと思う」→「手を洗う」→「洗ったけどやっぱり汚いと思う」→「再度手を洗う」という感じです。いくらやっても気になって、同じ行動を繰り返してしまう。これはおかしいと思っているけど、どうしても気になってやめられない。そのためにいろんな行動がスムーズにいかない。「なにやってんの!」と周囲は思いますが、当人はすごく困っているのです。

同じ行動を繰り返すのは、自閉スペクトラム症の子どもによくみられ、それは「こだわり行動」といわれます。「こだわり」と強迫の違いは、その行動を喜んでやっているか、行動に苦しめられているかの違いです。しかし、子どもの場合、強迫行動に没頭して(楽しんで?)いるように見えることもあり、こだわりと強迫が共存している場合もあって、実際の区別は難しいものです。

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強迫症は大人にも子どもにも見られます。子どもでしばしば見られるのは、宿題で漢字の練習をしていて、上手に書けないと消しゴムで消してまた書き直す、それでも気に入らずまた消してまた書いて...それを繰り返しているうちにノートが破れてかんしゃくを起こしてしまう、というものです。そのため、通常なら10分くらいで済みそうな漢字の宿題が2時間も3時間もかかり、親子ともども疲れ切ってしまいます。そんなときには「これは病気なんだよ」としっかり説明したうえで「きれいに書いて提出するのが宿題の目的ではなく、書くことで覚えることが目的なのだから、きれいに書けなくてもいい。消せると消して書き直したくなるから、鉛筆ではなくボールペンで書こう。それを担任の先生に認めてもらおうね」と話します。

ときどき「えっ?」と感じるのが「お母さんを包丁で刺してしまうかもしれない、それが気になって怖い」という訴えです。このような「加害への不安」は、どうしてこんなこと考えるのだろうと思ってしまいますが、それほど珍しいことではありません。決してお母さんを殺したいと思っているわけではなく、子どもはすごく不安に感じているので、「そんなことにはならないから大丈夫だよ」と安心させるように言葉をかけ、刃物類をできるだけ見えない場所に片付けてもらいます。

強迫としていちばん厄介なのが「巻き込み強迫」です。これは、自分の強迫行動に誰かを巻き込んでしまうものです。手が汚れるのが嫌だから、トイレのときに自分でパンツを下げることができない。そのため、トイレに行きたくなると、いつも誰か家族を呼んでパンツを下げてもらう、などが典型例です。このパターンの問題は、トイレのたびに誰かの手を煩わせてしまうことにあります。そして、周囲が手伝ってあげている限り、この状態はいつまでも改善しません。強迫は、自分が困っているから、自分でどうにかやり過ごす工夫をすることが改善につながるのですが、いつも誰かが助けてくれる状態だと、自分で解決することがなくなってしまうからです。そのため、言われるままに手伝うのではなく、できるだけ自分で対処できる方法を考えます。実際には、少しは手伝わないと生活が回らない場合があるので、「決して手伝ってはいけない」とは言えませんが、最低限の援助はしても、できるだけ自分ひとりで動けるように誘導していきます。この例では、ズボンをベルトではなくゴムにしたり、パンツに指を引っ掛けるリングを縫い付けて、自分で下ろせるようにしたりするとよいでしょう。

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年齢が上がってもよくみられるのが、はじめに述べた鍵の確認や、手洗い強迫です。とにかくそこら中が汚いと感じて触れない。触るときにはティッシュでくるんだり、ドアノブやリモコンをラップで巻いたりします。手洗いを繰り返して手荒れがひどくなったり、洗面台がベチャベチャになったり、何時間もシャワーを浴びて水道代がとんでもないことになったりもします。「汚くない」と言い聞かせればどうにかなる、というものではないのですが、「手は115秒洗えば十分なので、それ以上は気になっても10分間は絶対に手を洗わない」などと約束をして行動を制御します。「気になったときに即行動せず、しばらく我慢する」というのは非常に大切で、それによって気になる気持ちが徐々に薄れていくのです。もちろん、それだけではどうにもならない場合には、薬物療法を考慮します(最近は子どもにも適用のある薬があります)。

強迫症状は、いつも一定ではなく、改善と増悪を繰り返します。悪化しているときには、子どもが何か不安を抱えていたり、気持ち穏やかでなかったりするものです。そんな子どもの話をしっかり聴いて、気持ちを落ち着かせるのも大切な関わりです。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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