排泄に関わる問題(その3:昼間の尿失禁と遺糞症)

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前回、夜尿症についてお話ししましたが、それに関連するものとして、昼間の尿失禁があります。おしっこの漏らし方としては大きく2つのパターンがあり、1つめは「何かに夢中になっておしっこに行くタイミングが遅れ、バタバタとトイレに駆け込むが、ギリギリで間に合わない」というもの。もう1つは「知らず知らずのうちに、じわじわと漏れ出るもの」です。

前者は、好きなことを始めると夢中になりすぎて呼んでも聞こえなくなったり、なかなか中断できなくなったりするタイプの子どもにしばしばみられます。後者は、子ども自身も気づかないうちにおしっこがジワジワ漏れてパンツやズボンを毎日のように濡らしてしまうもので、臭いがして周囲から嫌がられてしまうなど、より問題が大きいものです。

このようにジワジワ漏れるタイプの場合、身体的に何らかの疾患が隠れていることがあるので、一度、泌尿器科などを受診してみることが大切です。しかし、検査をしても異常が見つからないことも多く、そういうときには「排尿コントロールがまだ不安定なのだろう」と説明されます。

トイレットトレーニングが完了して間もない頃は、どうしてもまだ脳によるコントロールが完全ではなく、そんな時期に大きな環境の変化などストレス状況に見舞われると、このような状態に陥ることがあるのです。

治療としては、一定の間隔(12時間に1回)でトイレに誘う「定時排尿」が有効です。あまり頻繁にトイレに行かせると、膀胱におしっこを貯められなくなるのではないか?という心配もありますが、漏らす子どもさんの場合には、漏らさない状況を作ることが重要で、漏らさなかったときに「うまくいったね!」と褒めてあげることが自信につながり、褒められて嬉しいからまた頑張ろうという気持ちにもなるので一石二鳥です。

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とはいえ、最終的には自分が気にしてトイレに行くようにならないと治ったとはいえず、そのためには「漏らすと恥ずかしい」と感じる子ども自身の内面の成長を待たなければなりません。

おしっこを漏らす子どもは、自分を客観視する力や、欲求を制御する力が弱いことが多く、なかなか「恥ずかしい」という気持ちになってくれない(あるいは、恥ずかしいという気持ちはあっても、やりたいことの欲求が勝ってしまう)のですが、小学6年生くらいになると、さすがに周囲の目を気にするようになり、その頃を境に自然と尿漏れも軽快していきます。

おしっこが漏れることと関係するのが便秘で、ひどい便秘があると直腸部に溜まった便が膀胱を圧迫するために、頻尿や尿漏れにつながります。また、便秘は便漏れ(遺糞症)とも関連しています。うんちを漏らすというと、ふつうは下痢のときにトイレが間に合わず漏らしてしまうというのをイメージされると思いますが、慢性の便漏れは下痢のためではなく、便秘のために起こります。

ひどい便秘があると、大きな便の塊によって直腸部が進展するため便意を感じにくくなり、詰まった便がところてん式に押し出されて固い便が少しずつポロポロ崩れて肛門からこぼれ落ちてしまう状態になります。また、便汁が大きな便の塊をつたって下りてきてパンツを汚したり、急に便意が生じて止められず、パンツの中に大量に排便してしまったり、ということが起こります。ストレスで便を漏らすというよりも、便秘という身体の問題によって便漏れが起きるということです。

ただし、それほどひどい便秘には、さまざまな心理社会的因子が関係します。関連が大きいのは発達障害のひとつである自閉スペクトラム症です。

自閉傾向があると、いろんなものが食べられず偏食になるため、どうしても便秘になりやすいし、浣腸をされて痛い目にあうと、それから排便することが怖くなり、ちゃんと排便できなくなる場合もあります。排便パターンへのこだわりからトイレできちんと排便できず「排便時にはオムツに履き替えて部屋の隅やカーテンの裏に隠れて立ったまま気張っている」という子どももいます。

しかし、立ったままちゃんと排便することができるでしょうか?便はやはり蹲踞の姿勢(考える人のポーズ)でしっかり腹圧をかけないと、十分に排出することはできません。そのためどんどん便秘がひどくなり、便漏れにつながるのです。

いつもパンツが汚れたり、便の小さな塊が床に落ちていたりすると、それを見た家族はどうしてもうんざりし、子どもに対してきつい言葉をかけてしまいます。それが続くと家族関係がぎくしゃくしたり、子どもは「どうせ自分なんか...」といじけてしまったりします。

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学校で漏らすことがあると、クラスメイトからいろいろ言われたり後ろ指を刺されたりして、孤立してしまうかもしれません。便の問題は身体の問題ではありますが、子どものこころの成長にも大きな影響を及ぼすのです。

便漏れに対する治療の第一は、やはり便秘への対処です。小児科医と相談して、浣腸を実施し溜まった便を排出したのち、今後便を溜めないように下剤を使いながら経過をみていきます。直腸が伸びきった状態ではなかなか便意を感じにくいため、できるだけ定期的にトイレに座らせて腹圧をかける練習をすることも大切です。そのときには、しっかりと腹圧をかけられるように、できれば和式トイレがよく、洋式トイレの場合には足台を置いて踏ん張れるよう工夫します。

子どもによっては便器に座ること自体を嫌がる場合もありますが、そんなときには「おまる」を用いたり、オムツをはかせたままトイレに座らせたりしてトイレットトレーニングをやり直します。叱っても先には進みません。子どもが何を不安に感じているのかをよく考え、その不安をどうすれば解消できるかを一緒に考えていくことが大切です。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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