基本的な安心感と自己肯定感

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今回は、子どものこころの発達を「基本的な安心感」と「自己肯定感」という観点からお話ししていきましょう。

基本的な安心感とは、「自分は周囲の人から受け入れられている」という気持ちです。自分の居場所がここにはあって、ここではどんなことを言っても、どんな振る舞いをしても受け入れてもらえる、そんな気持ちでいられる場所は、その人にとって本当に安心できる場だといえます。そして、そんな風に自分をまるごと受け入れてくれる人がいることで、人は自分に存在意義(価値)がある、つまり「生きてていいんだ」と感じ、また、受け入れてくれる人に対して信頼感をいだくことができるのです。基本的な安心感は、そのような安定した人間関係の基礎となるものです。

自己肯定感とは、文字通り「自分を肯定できる」気持ちです。自分のことを肯定できるというのは、「自分は正しい」と思うことではなく、「自分はやればできる」という感覚だと考えてください。人間、生きていればうまくいかないこと、恥ずかしいことがいっぱいありますが、それでも「最後はきっとどうにかなる」と楽観的に考えられれば、いろんなことに前向きに取り組むことができます。そのような、自分に対する「漠然とした自信」が自己肯定感です。

このように、基本的な安心感と自己肯定感は、人が生きていくうえで非常に重要な感覚だということがおわかりいただけると思います。そして、子どものこころの発達とは、成長とともにこれらの感覚を身につけていく過程だととらえることができます。

基本的な安心感は、子どもが乳幼児期からずっと大切にされ、愛されて育てられることから生まれます。もちろん、子どもはダメなことをすると叱られるし、親の機嫌が悪いときには、普段よりも邪険に扱われることもあるかもしれません。それでも、根っこの部分に「お父さんもお母さんも自分のことを大事にしてくれる」という感覚があれば、基本的な安心感は育っていくのです。

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ところが、親があまりにも気分のままに、あるときには子どもを甘やかし、あるときには暴言を吐いたり暴力を振るったりすると、子どもは「自分は大切にされている」という感覚を持つことができません。ネグレクトといわれる、ご飯もちゃんと食べさせてもらえない、衣服も準備してもらえないような状態も同様です。

このように、乳幼児期は子どもが基本的な安心感を身につけるための大切な時期です。乳幼児期に大切に育てられることから子どもは基本的な安心感を身につけ、基本的な安心感があるからこそ、子どもは幼稚園や小学校に上がったとき、クラスメイトと関わり、友だち関係を作っていくことができるのです。しかし、友だちとの関係はちょっとしたいざこざで揺らぎます。ときには学校でいじめられることだってあるでしょう。これまで「自分は受け入れられている」と思っていたのに、周囲から無視されたり悪口を言われたりすると、子どもは初めて「自分は受け入れてもらえないんだ」と感じます。

そして、どんどんその場にいることが不安になっていくのです。そんなときでも、基本的な安心感がしっかりしている子どもであれば、家に帰って家族から励ましてもらうことで、かろうじて自分を保つことができます。そして、つらいながらも日々を送っているうちに、手を差し伸べてくれるクラスメイトが現れたり、先生の指導が入ったりして周囲の状況が変わっていくのです。このような経過で「やっぱり自分は見捨てられるわけじゃないんだ」と思い直すことができれば、基本的な安心感はより強固になっていきます。

うまくいかない経験は、実は子どもが育っていくために大切なものでもあるのです。とはいえ、ひどいいじめなどに遭遇すると、助けられた経験以上に、子どもはこころに大きな傷を負ってしまいます。傷は大きすぎると治らないでいつまでも残り、「もう誰も信じられない」という気持ちにつながってしまいます。そのため、子どもが学校の友だち関係で悩んでいるときには、よくよく状況を聞いたうえで、立ち向かう方がいいのか、その場からいったん立ち去る方がいいのか、一緒に考えてあげる必要があります。

自己肯定感の形成に大きく影響するのは、やはり児童期・思春期です。学校に行き、いろんなことに取り組み、「自分にもできた」「頑張れた」という経験を重ねることで自己肯定感は育っていきます。仲間と一緒に何かを達成するという経験も、自己肯定感の形成には大きく役立ちます。もし、能力的な問題や落ち着きのなさ、不注意さなどがあり、うまくできないことばかり続けば、「やればできる」という感覚は育ちませんし、親や先生があまりにも厳しすぎ、ダメ出しばかり食らう感じになっても、やはり「自分はどうせできない」と思うことになってしまうでしょう。

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子どもはそれぞれ違います。多くの人がすんなりクリアできることが、なかなかできない子どももいます。それでも時間をかければできるのであれば、頑張ってやり遂げたことをほめていけばよい。1人では達成が難しいことであれば、一緒に取り組んであげればよい。周囲と比べてできなかったということより、その子なりに頑張ったことを認めていくのが自己肯定感の形成には重要です。もちろん、取り組まなければならないのは子ども自身ですが、うまく励まし、誘導していく手腕が子どもを見守る大人には求められます。そして、自己肯定感がついてくれば、子どもは徐々に1人で頑張れるようになっていくのです。

子どものこころの発達についてのお話は、これくらいで一区切りとしましょう。次回から、子どものこころの病気について少しずつ説明していきたいと思います。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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