子どものこころの発達(その3:児童期)

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前回まで、生まれてから比較的早い時期の子どものこころの発達についてお話ししてきましたが、今回から少し年齢が上がった時期に移っていきましょう。

表題に「児童期」とあるのですが、この「児童期」とは、いったいいつ頃をさすのでしょうか。教育の分野では、小学生のことを「児童」、中学生高校生を「生徒」といいますから、児童期は小学校時代のことなのかな?とも思うのですが、児童福祉法とか児童相談所という法律・行政用語における「児童」は18歳までの子ども全般をさします。実は「児童」という言葉は「子ども」のフォーマルな言い方でもあるのです(現在では、行政でも「子ども課」「子ども庁」など「子ども」が主流になりつつありますが)。

さて、本項では児童期を「子どもが本当の意味での集団生活を始める幼稚園年中(45歳)頃から、小学校に入学し思春期を迎える10歳頃までの期間」と定義します。集団生活を始めた子どもが集団の作用によって大きく発達していく時期、という括(くく)りです。集団で生活するという意味では「1歳頃から保育所に行く子もいるじゃないか」と思われるかもしれませんが、23歳の子どもは同じ場所にいても、それぞれがそれぞれで遊び、交流はあっても限られています。子ども同士が密接に関わり影響を及ぼし合う本当の意味での集団生活は、実は45歳から始まるのです。それでは話を始めましょう。

乳幼児期、子どもたちは家庭の中で、家族との関わりを中心に日々の生活を送っています。そして、少しずつ保育所や幼稚園といった場所に出かけ、集団生活を体験します。集団の中でのいろんな人との関わりは、子どもの成長にとって欠かせないものです。ロバート・フルガムという人の「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ」という本に、次のような一節があります。

「本当に知っていなくてはならないことを、わたしは全部残らず幼稚園で教わった。人生の知恵は大学院という山のてっぺんにあるのではなく、日曜学校の砂場に埋まっていたのである。何でもみんなで分け合うこと、ずるをしないこと、人をぶたないこと、使ったものは必ずもとの場所に戻すこと、散らかしたら自分で後片づけをすること、人のものに手を出さないこと、誰かを傷つけたらごめんなさいと言うこと...」(河出書房新社, 1990

まさにその通りで、こころの安定の基礎となる安心感や信頼感は、家族との関わりを通じて育(はぐく)まれますが、社会における基本的振る舞いは、集団生活における子ども同士の関わりの中でしか学べないのです。そして、それを学ぶ時期は、学校に上がる少し前の段階だということです。学校に上がる前に12年プレスクールがあるのは、実はすごく意味のあることなのです。

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そして、子どもたちは就学の時期を迎えます。国によって若干の差はありますが、学校が始まるのはだいたい56歳の年齢です。どうしてこの時期なのかというと、①認知の発達段階として、具体的な現実世界をしっかりと認識できるようになる、②愛着の対象から一定時間、情緒不安定にならずに離れることができるようになる、③集団生活を通じて、社会の中で周囲と安定した関わりがとれるようになる、という①②③が揃うのがこの時期だからです。加えて、身体的にも成長し、よくある感染症にもひととおり罹患して免疫ができ、体調を崩す頻度が格段に減少するということもあります。つまり、就学期は「子どもが子どもとして一応の完成を迎える時期」なのです。そのため、学校に通い始めて数年(小学1年~4年生くらい)の間、多くの子どもは情緒的に安定し、意欲をもって学校生活を送ることができます。

とはいえ、学校は保育所や幼稚園に比べて取り組まなければならないことも多く、時間に追われ、怖い先生がいて、やりたくないことでも頑張らないといけないストレスの多い場所です。その困難な状況を乗り越えるために、子どもたちは(とくに同性の)子ども同士でグループを作ります。気が合う仲間が集まっていろんな話をし、一緒に遊びながら成長していくのです。ときには集団で冒険をしたり、ちょっと悪いことをしたりするため、これくらいの年代を「ギャングエイジ」といいます。浦沢直樹先生の漫画「20世紀少年」に描かれているような風景です。昭和の子どもたちは、確かにあんな感じで遊んでいました。しかし、平成から令和になり、子どもの数はどんどん減少し、田舎になればなるほど学校への行き来は車での送迎が当たり前になり、家に帰ったら最後、遊びに行けるほど近くに友だちの家はないし、公園に子どもがたむろしているわけでもなくなりました。子どもたちはそれぞれスマホでネットゲームをしたり、YouTubeを見たりするしかない、そんな状況になったいま、ギャングエイジという言葉はすでに過去の遺物になっているのかもしれません。

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とはいえ、この時期、仲間で群れて行動するのは、子どもたちの社会性を高めるうえで非常に大切です。就学前の子どもは、集団生活を通じて対人関係の基礎を学びますが、この時期の子どもは、自分たちで集団の掟を作り、それを守ること、集団の構成員それぞれを認め、協調して行動することを通じて人間社会の基礎を学びます。そのような経験から、自分の欲求・衝動をコントロールする力を高めていくのです。

最近では、スポーツクラブや学習塾などが、子どもたちが放課後に集団で交わる場となっています。しかし、そのような場所は大人がルールを作り、大人の監督のもとで活動するようになっています。子どもたちが自然発生的に集まり、自分たちでルールを作って活動するのとは大きな差があり、本当の意味での代替になっているとはいえません。子どもたちが実体験として自由に集まって遊べる時間と場所をいかに確保するか、それが今後の課題となるのではないかと思います。

次回は、児童期に続く思春期について述べていきます。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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