心身症ってなんだろう?

子どものこころ20.png

これまで何回かにわたり、不安症や強迫症といった精神疾患についてお話をしてきました。精神疾患というのは、不安や強迫観念、抑うつ、幻覚、妄想といった精神症状、すなわち「こころ」の中に症状が出現する病気です。そこで、今回からは少し変わって、しばらく「心身症」についてお話ししたいと思います。とはいえ、心身症という言葉、聞いたことはあっても、その内容をちゃんと理解している人はあまり多くないのではないでしょうか。それこそ精神疾患と何が違うのか、よくわからない人がほとんどだと思います。

心身症という病気の症状は、先ほど述べたような精神症状ではなく、頭が痛いとかお腹が痛いとかいう身体症状です。みなさんも一度は、発表会など人前で発表するときに、緊張してお腹が痛くなったり、クラクラめまいがしたりしたことがありませんか? 大きなイベントをやり遂げたり、テスト勉強を頑張ったりして、やっと終わった!と思ったら、翌日から風邪ひいて熱を出してしまった、そんな経験があるかもしれません。心身症というのは、このように、心理社会的ストレスに影響されて、さまざまな身体の症状が出現したり悪化したりする状態のことです。

画像1.png

もちろん、単発でこういうことが起こったからといって、病院ですぐ「心身症ですね」と診断されるわけではありません。「緊張してお腹が痛くなったんだね」「疲れて風邪ひいたんでしょうね」と言われるだけです。でも、もしこういうことが繰り返し起こったらどうでしょうか。たとえば、学校に行こうとすると毎日お腹が痛くなってトイレに1時間こもらなければならない、外出するとおしっこが気になって途中で何度もコンビニに寄ってトイレに行かなければならないなどです。すると、学校に毎日遅刻して先生から叱られたり、高校生では進級が危うくなったりしますし、スムーズに外出できなくなることもあり、日常生活に大きな支障が生じます。こういう状況であれば「心理社会的ストレスが腹痛や尿意に密接に影響しているのでは?」と考えられ、心身症と診断されることになります。つまり、実際に心身症と診断されるのは、心理社会的ストレスに影響されて繰り返し身体の症状が生じるために、日常生活が滞る場合です。

ちなみに、心身症というのは、不安症や強迫症のような「病名」ではありません。病名ではなく、身体症状が心理社会的ストレスに影響されて発症したり悪化したりする「病態」を示す用語です。なので、心身症という単一の病気があるわけではなく、いろんな病気が心身症の病態をとります。ストレスで腹痛や下痢が生じれば、過敏性腸症候群(心身症)、頭痛が起きれば、慢性頭痛(心身症)のように表現されます。ストレスでイライラして皮膚をかきむしってアトピーが悪化すれば、アトピー性皮膚炎(心身症)、糖尿病の人がストレスで甘いものを食べまくって血糖コントロールが悪くなれば、糖尿病(心身症)といえなくもないのですが、アトピー性皮膚炎や糖尿病は病気の原因がはっきりしているので、よほど明確なこころと身体のつながり(それを「心身相関」といいます)がないと、心身症とはいわれないかもしれません。

画像2.png

心身症は、治療の際に、症状を悪化させている心理社会的因子を明らかにし、そこを調整しないとよくなりません。心理社会的因子というと難しそうですが、簡単にいうと「何がストレスになっているのか?」ということです。子どもの育ちや家庭の様子、学校での様子など、いろんな情報を収集して、ストレスになっている事柄を洗い出し、それが変えていけるものであれば変えていく作業をします。ただし、実際には変えられないことも多いので、そこが難しいところです。たとえば、家庭でお父さんとお母さんがすごく仲が悪い、それを子どもが気に病んでいるときに「お父さんお母さん、仲良くしてください」といったところで、無理なものは無理でしょう。とはいえ、子どもが気に病んでいることを伝えれば、夫婦でもう少しどうにかしなければと考えてくれるかもしれません。子どもに軽度の知的障害があり、学校の勉強が難しくてストレスになっているとき、知的障害を治すことはできませんから、勉強がスムーズにわかるようになることを目標にすると難しいかもしれませんが、学校で特別支援学級を利用するなど、学習のサポートを受けることはできます。このように、できないことをどうにかしようと考えるのではなく、変えられないことは受け入れて、できることを続けていこうと考える姿勢が大切です。

それに加えて、心身症の治療では、身体の症状をうまくコントロールすることが重要となります。心身症では、身体症状が続くことで社会生活に支障が出て、それが「自分はダメだ」という自信喪失や抑うつ感につながるからです。もちろん、慢性に続く腹痛や頭痛の症状は簡単には治りませんから、「絶対に症状を治す!」などと意気込んではいけません。治らないけど、症状が出たときには「こうすれば少し軽くなる」「このくらい我慢していれば軽くなるから、しばらく静かにしておこう」という対処法があればよいわけです。また、「症状がよくなったら学校に行こう、楽しいことをしよう」と考えるのではなく「症状があっても行ける範囲で学校に行こう、楽しめることは楽しもう」と考えることが大切です。「心身症は治すものではなく、付き合うものなんだよね...」という気持ちの切り替えが、心身症と共存して生きていくためのミソだといえるでしょう。

それでは、次回からは心身症になりやすい病気について、具体的に紹介していきます。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
この記事の感想をお聞かせください
  • 学びがある0
  • 分りやすい0
  • 役に立った0

この記事についてのご意見やご相談等をお送りください。

ご意見ご相談

前へ

おすすめ商品:尾西食品「CoCo壱番屋監修 尾西のカレーライスセット」

次へ

おすすめ商品:正しい姿勢のサポートに「MTG Styleシリーズ」