こどもの「チック」ついて

子どものこころ8-1.png

チックは、子ども(大人にもあります)がしきりにまばたきをしたり、首を振ったりする動作のことです。誰もが自分の周囲で一度は見たことがあるだろうというくらい日常的なもので、著名人では、故石原慎太郎都知事(まばたき)や北野武監督(首を振る)がされていましたね。それくらい身近なものとはいえ、正確には理解されていない面があるので、今日はチックについて取り上げてみました。

チックの定義は「不随意的、反復的な一部の筋肉の動き」となります。不随意的というのは「意識していない」ということで、自分の意思で動かしているのではなく、勝手に動いてしまうというものです。また、反復的というのは「繰り返し起こる」ということです。よくあるのは冒頭で述べた「まばたきを繰り返す」「何度も首を傾けたり、肩をあげたりする」というものですが、目に関しては「眼球を上転させる」「白目をむく」というのもありますし、体の筋肉については「首を回して後ろを向く」「腹筋が動く」「手足が動く」「正面にいる人の目を突こうとする」「飛び跳ねる」というのもあります。こういうのを「運動性チック」といいます。

ところがチックにはもうひとつ「音声チック」というのがあり、これは「咳を繰り返す」「何度も鼻をすする」など何らかの音を立てるものです。「フン、フン...と繰り返す」「急に大声で叫ぶ」「いやらしい言葉を何度も言う」というのもあります。運動性チックは見ていないとわからないものの、音声チックは勝手に聞こえてくるため、周囲への影響が大きく厄介なものです。

ちなみに、ネット上で「トゥレット症」という病名を見ることがあるかもしれません。これは、何か特別な病気だと思われているフシがありますが、医学的には運動性チックと音声チックを併せ持つものをそう言うだけで、チックの一種としては変わりありません(ただし、チックの中では重症のものといえます)。以前は「ジル・ド・ラ・トゥレット症候群」という用語がありましたが、これは、ひどい運動性チックに汚言(卑猥な言葉など)を含む音声チックを伴うもので、現在のトゥレット症とは異なります(トゥレット症の定義に「汚言」は含まれていません)。

画像3.png

チックについてよく言われるのが「チックが出たのは何か心理的にストレスがあるのではないか」ということです。これば半分正しく、半分間違いです。チックの基本は体質的なもので、誰もが同じような条件下ではチックになるというものではありません。チック体質をもつ子どもが、例えばアレルギーなどで眼が痒くなり、まばたきを繰り返しているうちにチックになった、鼻炎で何度も鼻をすすっているうちにチックになったというように、初めて症状が出るときには、ストレスはとくに関係しないことが多いのです。

ただし、チックは一度出現すると出たり引っ込んだりを繰り返すもので、次に出るときには何かストレスが悪さをしているかもしれません。チックで相談を受けたときには、よく「チックはこころのリトマス試験紙みたいなものだよ」と説明しています。心理的ストレスは、初発時はあまり関係しませんが、再燃のときには関係している可能性があるので、注意してみてあげましょうということです。

もうひとつ、チックであまり知られていないのが「チックは不随意運動とはいわれるが、実は完全な不随意運動ではない」ということです。「勝手に動く」とはいうものの、チックの動作は「体に生じた違和感を解消するために自ら動かしている」面があり、程度にもよりますが、一定の制御が可能なのです。

チックが発症して早期の子どもはそんなこと全然わからずにやっていますが、ある程度の年齢になり、チックとの付き合いが長くなると「目がゴロゴロするから何度もまばたきをする」「首や肩に変な感覚があるから動かしてその感覚を和らげようとする」というカラクリがわかってきます。そのため「この場面でやるとみっともないから少し我慢する」ということができるようになるのです。

よく「学校ではあまりしないのに、家でひどくなるのは家にストレスがあるのでしょうか」と質問されることがありますが、これは家がストレスなのではなく、学校では周囲の目を気にして我慢し、家ではリラックスできるから気にせずやっているのです。教室内では必死にこらえ、トイレの個室でガンガンやっているような子どももいます。このことは治療にも応用可能で「体に違和感が生じたときには、チックではなく、その場所をマッサージすると気が紛れるから、チックはおさまっていくよ」と指導します。

チックはこのように年齢が上がるとだんだんと自分で対処ができるようになるものですし、多くの例ではよくなったり悪くなったりしながら全体としては改善に向かいますので、あまり積極的な治療はせず、経過をみるのが治療の第一選択です。「叱らない、指摘しない」が基本なのは言うまでもありません。子どもも好きでやっているわけではないので、叱責が子どもを苦しめるのは理解していただけると思います。ただし「フン、フン」と小さな声が出るような音声チックは、本人も気づいていないので、やさしく「いま出ているよ」と気づかせてあげた方が自分でコントロールするきっかけとなります。嫌な顔で叱るわけでなければ、指摘して気づかせるのは100%悪いことではないということです。

画像4.png

病院では、重症のチックに対して薬物療法が行われる場合もありますが、国内でチックに対して正式に適応のある薬物はありませんし、薬物を開始するとやめられなくなることも多いため、使用には細心の注意が必要です。チックは自然に改善増悪を繰り返すのに、薬をやめたタイミングで悪くなると、どうしても薬を切ったせいだと感じられるため、中止が難しくなるのです。ひどい音声チックなどの場合には使わざるをえないのも事実ですが、どんなにひどいチックでも、環境が変わるとウソのようにおさまってしまうこともあります。そのことをしっかりと説明し、ひどい時期だけ期間限定で薬を使い、改善すれば早めに中止するというメリハリが大切です。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
この記事の感想をお聞かせください
  • 学びがある0
  • 分りやすい0
  • 役に立った0

この記事についてのご意見やご相談等をお送りください。

ご意見ご相談

前へ

おすすめ商品:「オーラルピース」

次へ

夏野菜のさっぱりキーマカレー