子どものこころの発達(その2:対人関係の発達-愛着について)

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前回は、子どものこころの発達のなかでも、ものの見方や感じ方の発達についてお話ししました。加えて、今回はとくに対人関係というか、コミュニケーションの発達についてお話ししましょう。

 何もわからずに生まれてきた赤ちゃんは、だんだんと「自分」と「他者」というものを意識するようになります。それが、人の「こころ」の芽生えなのですが、この「自分は自分」という意識が明確になるのは23歳頃だといわれています。これがいわゆる第一反抗期です。「自分はお母さんとは違う一個の人間だ」と、そこまで思っているかどうかはわかりませんが、「自分のことは自分でする」という意識が明確になるからこそ、周囲からとやかく言われることに反発するわけです。とはいえ、この頃の子どもは当然、一人では生きていけません。また、見るもの触れるもの新しいことばかりなので、ワクワクと興味溢れる毎日を送っている反面、わからないことばかりで不安な面もあります。それぞれの子どもの性質にもよりますが、「知らないこと」「わからないこと」は人をすごく不安にするのです。

さて、人は不安を感じたとき、自分なりにいろんな方法でその不安を解消しながら社会生活を送っています。そして、小さな子どもにとって、不安を解消するいちばんの方法は「安心できる相手に抱きしめてもらう」ことです。

親から離れて新しい世界に出ていくのは不安だから、ときどき親のもとに帰って抱きしめてもらう、それを繰り返しながら子どもは少しずつ自分の世界を広げていきます。公園に行っても、親と遊具の間を行ったり来たりしながら遊んでいるのはそのためです。ただし、それができるためには、子どもにとって親が安心できる存在でなければなりません。

たとえば、子どもがいくら親に「抱っこして」と寄っていっても、親がスマホばかり見てまったく相手にしてくれなかったり、邪魔だと叩かれ暴言を浴びせられたりするようだと、子どもは親に素直に甘えることができなくなります。そうなると、子どもは不安を解消できず、その場で固まってしまいます。

親が抑うつ的で、今にもどこかに行って目の前から消えてしまいそうだと、子どもは自分が置いていかれるかもしれないと不安で、親から離れることができません。親がひどく気まぐれで、あるときはベタベタと甘やかすのに、あるときにはひどく暴力を振るったりするようだと、子どもはこの親とどう付き合えばよいのかわからず混乱してしまいます。

このように、親が適切かつ安定的に子どものサインに反応できないと、子どもは社会のなかで安心して活動することができないのです。

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「子どもの不安を親がしっかりと受け止めて適切に対応する」その繰り返しによって、安心できる相手との間に形成される関係のことを「愛着(アタッチメント)」といいます。「自分は大切にされている」「お母さんはいつも自分を助けてくれる」そんな、基本的な「安心感」ともいうべき感覚でしょうか。このような、人間に対する「基本的な安心感」があることで、子どもは相手を信頼し、安定した関係を築くことができるようになります。

もし、小さい頃の愛着形成がうまくいかないと、不安で誰とも関わりが取れなくなったり、逆に見捨てられるのが不安で誰かにすがりついたりして、他者との適切な距離がとれなくなってしまいます。このような状態を「愛着(アタッチメント)障害」といいます。また、愛着形成がうまくいかないと、成長してからも「誰にも頼れない」と一人で頑張りすぎて、結局は潰れることになってしまいます。

そうならないために、親は子どもの訴えをしっかりと聞き、適切に対応することが必要です。もちろん、これは子どものわがままを全部きいてあげるということではありません。親が子どもの言いなりになるのは、親子の適切な関係とはいえません。

ダメなことはダメと言い、きちんと叱ってあげることで、子どもは親への信頼感を高めていくのです。子どもはちゃんと親を見ているんですね。また、親も人間ですから調子が良いときも悪いときもあり、いつも適切に対応できるわけではありません。それでも大丈夫です。ある程度の気持ちの揺らぎは人間として当然あるものですから、揺らぎを見せることも、子どもに「人間とはこういうものなんだ」と教える意味でも大切なのだと思います。

ただし、あまりにも揺らぎが大きすぎると、子どもは調子がよいときと悪いときの親が同じ人間だと感じることができずに混乱してしまうので、過度な不安定さには注意が必要です。

自分ができる範囲で、無理なく子育てに関わるようにしましょう。

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できないことは自分一人で頑張りすぎず、いさぎよく誰かの助けを借りるようにします。小さい頃にうまく愛着形成ができなかったら、もう取り返しがつかないというわけではありません。これまでの対応がまずかったと思ったら、それ以降、できるだけ安定した関わりを続けていけば、基本的な安心感を十分補強することができます。一人で抱え込まず、いろんな人に相談しながら、あきらめずに根気強く関わり続けることが大切です。

さて、次回は少し年齢を上げて、児童期、思春期のこころの発達の話をしていくことにします。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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