子どもの摂食障害(その2)回避・制限性食物摂取症

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前回は、摂食障害の代表選手としての「神経性やせ症」についてお話ししました。今回は、子どもに多いもうひとつのタイプの摂食障害である「回避・制限性食物摂取症」について説明したいと思います。

病名だけを見ると「なにこれ?」と感じられるかもしれません。それは、この病名が英語をそのまま日本語訳しただけのものだからです。実際、病名を聞いてもどのような状態なのか想像が難しいでしょう。それでは、どういう病気なのでしょうか。

簡単にいうと「やせたい気持ちとは関係なく、とにかくご飯が食べられない状態」です。神経性やせ症はやせ願望が基礎にあり、その気持ちが悪さをすることで、食事を摂らなかったり、太りたくないから食べても吐いたりします。いくらやせても「自分は太っている」と感じてしまう、つまり「ボディイメージの障害」があるのが特徴です。回避・制限性食物摂取症には、神経性やせ症にみられるこのような認知の障害がありません。ただ「食べられない」のです。そして、それにはいくつかのパターンがあります。

① つらいことがあるとストレスで食欲が落ちてしまう

ストレス状況は食欲の低下を引き起こします。家族の病気、学校での友だちとのトラブル、成績の低下など、いろんなことでショックを受けると食欲が低下します。通常はこのような食欲低下は一時的で、しばらくすると回復するのですが、子どもでは長引くことがあり、栄養状態の悪化が長引き体重減少が進むと、脳が普通に働かなくなり、さらに回復を遅らせてしまいます。

② のどにひっかけそうで飲み込めなくなる

食事中に固形物をのどにひっかけて吐いてしまったり、苦しい思いをしたりしたことで飲み込むのが不安になり、それ以降、固形物が食べられなくなることがあります。「食べ物を詰まらせて亡くなった」というニュースを見ただけで不安になって発症したケースもあります。これは、固形物だけが無理で液状のものなら飲み込める場合と、水分でさえ摂取できなくなる場合があり、前者であれば、スープや牛乳、経腸栄養剤を飲みながら栄養状態を保ち、アイス、ヨーグルト、プリン、ゼリーなど形があるものに徐々にトライしていけば回復できますが、後者になると、まずは点滴や経管栄養が必要になるので入院治療が必要です。

ストレスに伴う食欲低下や、不安で飲み込めない状態は、子どもが生来もっている不安の強さが影響し、不安の強い子どもほど、このような病気になりやすい傾向があります。また、治療においても、子どもの不安を強めないように、安心できる環境で「大丈夫だよ」と声をかけながら、焦らず少しずつ摂取を進めていくことが大切です。

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③ もともと食事量が少ない

生まれつき小食で身体的にも小柄、食べること自体にあまり意欲的でない子どもがいます。このような子どもは、食欲低下そのものよりも、学校健診などで成長不良を指摘され、病院を受診することが多いようです。また、ギリギリの体重で生活しているので、胃腸炎などに罹患して急に食べられなくなり体重が減ると、身体が限界を超えてガタガタと調子を崩してしまいます。中学生になって活動量が増えると、それについていけずに学校に行けなくなったり、疲れがたまっていつもより食欲が落ちて危険な状態に陥ったり、などということがあります。思春期になって身体的成長が進む時期には食事量が自然に増えていくケースが多いのですが、成長期にも小食が持続すると、成長不良のまま成人してしまう可能性もあります。

④ 食べられるものが極端に少ない

簡単にいえば「ひどい偏食」です。自閉スペクトラム症の子どもに多く見られ、こだわりや過敏さのため、食べられるものが極端に少なくなります。白ご飯しか食べない、このおかずしか食べないなど食事内容が偏り、ちゃんと成長できるのかと心配になりますが、多くの場合、それほど健康を害することなく成長できるので不思議です。自閉スペクトラム症の子どもはとにかく変化に弱いので、新しいものが受け入れられません。また、口の中に触る感覚や、匂いや味に敏感なので、いつもと少しでも違うと食べられないのです。このような状態は成人後まで残ることもありますが、何かのきっかけに改善されるケースも珍しくありません。成長すると、どんな人でも許容範囲が広がっていくからでしょうか。

小食や偏食は、身体の状態が維持され、成長にひどい悪影響がない限りは様子を見ておいてよいものです。このような状態には自閉スペクトラム症が関わることが多く、無理に変えようとしても子どもの頑なさが強く、効果が上がりにくいからです。また、無理強いすると逆に調子を崩してしまう場合もあるので注意が必要です。

①~④に示したような、神経性やせ症ではないタイプの摂食障害は子どもにはわりと多く、とくに年少になればなるほどこちらの割合が増えます。そして、自閉スペクトラム症など神経発達症(発達障害)との関連が強いといわれています。神経性やせ症は明らかに女性に多い疾患ですが、こちらは神経発達症との関連はあっても男女差はあまりありません。しかし、子どもが思春期に入ると、神経性やせ症の方が多くなり、病気としても成人型に移行していきます。

著者

長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司
著者 小柳憲司(コヤナギ ケンシ)
所属・役職 長崎県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長
長崎大学医学部、長崎大学教育学部、佐賀大学医学部、長崎医療技術専門学校非常勤講師
専門領域 小児科学、心身医学
主な著書 身体・行動・こころから考える 子どもの診かた・関わりかた(新興医学出版社)
学校に行けない子どもたちのための対応ハンドブック(新興医学出版社)
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